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居酒屋
灯りの消えない場所
「今日も客は来るだろうか……」 夕方5時、陽が傾き始めた街の片隅で、居酒屋「古川屋」の小さな提灯に火が灯る。店の名前が書かれた布地はところどころ色褪せ、端がほつれている。鉄製の引き戸を開けると、薄暗い店内にカウンター席が6つ、壁際には小さなテーブル席が2つだけ。そのどれもが長年使い込まれ、傷や染みが目立っていた。 店主の古川重雄は、厨房の奥で魚をさばきながら、何度目かのため息をついた。50代後半、くたびれたエプロンを身に着けた彼の顔には深い皺が刻まれ、その目には年々色あせるような疲れが宿っている。 小声で呟いたその言葉は、誰にも届かないまま、店内に吸い込まれて消えた。重雄がこの居
北本素子
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